Compact disc can never die

昨年末から細野さんのソロアルバムがたくさん再発されてとても嬉しい。しかもこれまで手に入りにくかったモナド〜アーリー90'sのアンビエント期が中心のラインナップで尚嬉しい。


カタログコンプリートは不可能なので、ずっと気になってたアルバムから。
12月に『COINCIDENTAL MUSIC』、『PARADISE VIEW』、『THE ENDLESS TALKING』と買っていって、先月は『omni sight seeing』を買いました。

omni Sight Seeing

omni Sight Seeing


90年前後は、細野さん自身アンビエントの海にどっぷりだったと振り返っている時期だし、個人的にニューエイジの思想とかはちょいと苦手なところがあるので(『LOVE,PEACE&TRANCE』なんかはちょっと苦手)、どうかなと思いながら聴きましたが、すんばらしい!「す」と「ば」の間に「ん」が入ります。


で、やっぱり細野さんの魅力は「軽さ」だな、と再認識。
アンビエントにどっぷりでシリアスな時期だったなんて言いながら、観察者の持つ「軽さ」があるなと。
89年当時のワールドミュージックの盛り上がりがどんな様相を呈していたのか僕は知りませんが、細野さんがここでとった「観光」という立場が、その「軽さ」が、何か普遍的な魅力をこのアルバムに与えている気がします。良い意味で時代の音がしない。
これが完全限定生産というのはもったいないなぁ。トロピカル3部作と同じくらい重要でポピュラリティーのある作品だと思うんですが。



で、今日の本題はアルバムの中身ではなくてジャケットについて。恐縮ながら、苦言を呈したいのです。


omni sight seeing』の再発、とにかく楽しみにしていた僕、発売日に近所のHMVに買いに走りました。
邦楽のほ…ほ…ほ…細野晴臣
あんまり品揃えの良い店とは言えませんが、ちゃんとあります。『omni...』と同時発売の『源氏物語』と『MEDISON COMPILATION』も並んでる。全部欲しいけど財布は寂しく、今日のところはお目当ての『omni...』一枚で我慢するか、と手に取る。
ネットでCDを買うことも少なくない今日この頃ですが、店頭で実際に商品を手にとって購入を決めるのはやはりわくわくするものです。


ところが、
どうもおかしい。
わくわくしない。
…気にかかりながらもとりあえず購入して、家に帰って封を開けてから気付きました。


あー!ジャケットの…
文字が、写真が、ぼけぼけではないか!


これ、多分ジャケットの元原稿が残っていなかったため、印刷物(当時販売されたCDのジャケ)からスキャニングして刷ったんでしょう。
スキャニングしっぱなしで何か画像処理した様子も見受けられず、写真や文字の細部はぼけて、スキャン元の網点を拾っているため色は浅くにごって、果ては傷や色褪せまで拾ってしまっていました。


そのせいで、新品の製品を手にした時に感じるわくわく感が損なわれていた訳です。


でもこういうの、再発ものでは実はそんなに珍しいこっちゃないのです。
ブラジルのアナログ再発ものなんかもっとひどいのはざらにある。


ただ今回なんとなくそれを見過ごせなかったのは、本人監修によるリマスタリングとか、デジパック仕様とか、新しいライナーノーツとかの付加価値を付けて相応の値段で販売してるのに、商品の顔になるジャケットがこのレベルでいいんだろうかと感じたから。



最近レコード会社各社が、SHM-CDとかHQCDとかBlu-specCDとか新素材のCDを高音質を謳って展開しています。
CDの売り上げが音楽配信に押されて(理由はそれだけじゃないでしょうが)低下していることを受けて、あまり開発コストをかけずに、消費者にもコストをかけさせずに、パッケージ商品に新しい価値付けをしようという試みなんでしょうが、「素材が変わって音が良くなる」って理屈はわかるような気もしますが、正直なんだか眉唾な感じもします。だって中身はおんなじデータだよ?それにその値段設定…

配信と、CDやアナログレコードなんかのパッケージ商品と、どちらがレコード会社にとって収益性が高いかは知りませんが、パッケージ販売の低迷に危機感を持ってこういう商法を打ち出したんだろうというのは想像に固くありません。
でもコンピューターの技術革新は日進月歩。配信音源の音質がCDの音質を超えるのも遠い未来の話ではないでしょう。ならば、この「音と連動したアートワークを施した紙やプラスチックのケースに音が詰まった円盤が入った記録物」=“20世紀が生んだ愛すべき発明”の何に僕らが魅かれてきたのか、総合的に見直す必要があるんじゃないの?


音が、写真やイラストが印刷された箱に入って、ひとつの作品として販売される。それならその箱に印刷された写真やイラスト(文字だって)もその音の次ぐらいには重要なはず。その作品をより良い形で聴いてもらいたいと思うのなら、リマスターとか新素材とかで音をクリアにするのと同じくらいジャケットだってクリアにしなきゃ。


omni...』を買ってから、「こんなことは取るに足らないようなことなのかもなぁ」とも思いながら、あれこれ考えていたのですが、今日買った本を読んでやっぱりそういうのって大事なんだよって改めて思いました。


杉浦茂傑作選集 怪星ガイガー・八百八狸

杉浦茂傑作選集 怪星ガイガー・八百八狸

印刷精度の低い半世紀前の雑誌の付録しか残ってないところからだってこんなきれいな本が作れるんだよ。
なんてったって愛があるから。


そうそう。

愛だよ、愛。